フライフィッシングとテンカラをめぐる新たな動き。これから始める人に知っておいて欲しいこと



 
 
雑誌GO OUTの人気コーナーで、スタイリストの岡部さんとアートディレクターのジェリー鵜飼さんが中心となって連載しているSOTOKEN。外遊び研究所。9月号は「Fly Fishing Meets UL Tenkara」と題して毛針釣りをテーマにするということで、少しだけお手伝いをさせていただいた。
 

これまでフライフィッシングとテンカラは同じ毛針釣りという共通項がありながら、あまり同時に語られることは無かったように思う。今回は特に釣りの専門誌にはあまり無い切り口で、逆に勉強になることも多かった。さすがソトケンチームの仕事といった内容で、少しでも釣りに興味がある人にはぜひ読んでもらいたい内容となっている。紙面でも少し今の流れについても触れているけど、ヒントになればと思ってここではもう少し掘り下げて書いてみたい。

 
 

歴史

西洋式毛針釣りと和式毛針釣り。文献を紐解けば現在の形に近いスタイルとして記述があるのは両者とも16世紀から17世紀あたりだけど、もちろんそれ以前から毛針には長い長い歴史がある。魚を釣りたいと思ったとき、まさに魚が食べているものを流せば釣れると思うのは当然だろう。観察して、どうやらカゲロウみたいな虫を食べているらしい、それに似たものを同じように流せば食いついてくるのではないか、これは鳥の羽で作れないか。想像でしかないけど、人類の自然な流れだったと思う。

 

1653年初版のアイザック・ウォルトン(Izaak Walton)著のThe Compleat Angler(邦題:釣魚大全)

 

ヨーロッパで生まれたフライフィッシングは、アメリカに渡って独自の発展をし、日本では1960年代後半あたりから主にアメリカからの情報で発展した。一方のテンカラはスタイルとして確立したのは江戸時代あたりからだろうか、いわゆる職業漁師の釣りとして成立していく。職漁師は古くから旅館などにイワナを卸したりして生活してきた山の人々で、猟師の世界のマタギと呼ばれる人々と近い。

 

フライフィッシングとテンカラのルーツの違い

ここにフライフィッシングとテンカラの大きな違いがあるのだけど、フライフィッシングは主に趣味の釣りとして、テンカラは漁として発展してきた歴史がある。テンカラの情報が他の釣りに比べて少ないのはここにも理由があって、伝承的に受け継がれてきたからだと考えられる。毛針を使うのも山奥でエサの調達の必要が無く、魚を傷つけずに高く売る方法として選ばれたと思う。毛針の種類も1種類か2種類あれば十分で、沈む毛針の水中での動かし方に極意があったのだろう。漁の世界では基本的に他の人間に秘密は明かさない。毛針一つとっても一子相伝的な秘密の毛針があったはずだ。

 

職漁師の世界を詳しく知りたい方はこの本がおすすめ。

 
 

二つの交わり

それが近年になってテンカラを趣味の釣りとしてやる人々が出てくることによって、そのスタイルも大きく様変わりしてきた。この辺りからフライフィッシングとテンカラも少しずつ交わるようになってくる。テンカラにおいても毛針のパターンをフライフィッシングから取り入れるようになった。フライフィッシングでもフライを動かす釣りの時などは参考になることも多いだろう。今ではテンカラの人も普通に浮く毛針を使い、ドライフライと呼んでいる。中には糸にフライラインを使っている人もいるようだ。また毛針を巻く際にも、フライフィッシングのツールと素材、針もフライ用のアイ(糸を通す環)が付いたものを使う人が多い。

 

 

ウルトラライトという流れ

さらにここ何年かで新たな交流も起こってきた。アメリカのアウトドアの世界でいわゆるUL(ウルトラライト)志向の人々が日本のテンカラを見つけたのだ。アメリカのコロラド州で創業されたTenkara USAが道具も含めてアメリカ市場に提案した最初の会社だったように記憶している。ロッドとラインとフライがあれば成立するものとして、あくまでも「シンプルなフライフィッシング」として紹介したのは彼らのうまいところ。

 

その後、Tenkara Rod Co.Temple Fork Outfittersなど、色々な会社が商品をリリースしてきている。patagoniaもSimple Fly Fishingという本とともにTemple Fork Outfitters社製のOEM生産のロッドの販売を始めた。これはUL志向というよりは西洋から見た東洋的なシンプル思想へのオマージュだろうか…。それらが今日本へ逆輸入され、今度は日本のアウトドアのUL志向の人達が興味を持ってきているという状況だろう。

 

試しにpatagonia社のロッドを使ってみたけど、これは純粋なテンカラというよりはフライフィッシングとのハイブリッド・テンカラとでも呼ぶべきものだろう。実際彼らはシンプル・フライフィッシングという呼び方をしている。日本のテンカラではナイロン糸を縒ったテーパーラインやレベルラインと呼ばれるフロロカーボンの糸をラインに使用するスタイルが主流となっているけど、この商品に付いているのはフライラインと同じ素材のもの。毛針もフライフィッシングの毛針そのものだ。本も読んでみたけど、毛針の説明も含めてほぼフライフィッシングの本と言ってもいい感じ。

 

 

これをテンカラと言ってしまうとテンカラをやっている人には少し違和感があるだろう。日本人ならテンカラでしょ、と言って最初に買う道具がテンカラではないかもしれない。下のトレーラー動画でもイヴォン・シュイナードさんが言っているけど、フライフィッシングの練習としての存在はアリかもしれない。

 

 


フライフィッシングとテンカラの違い

これから釣りをやってみたいと思っている人には、フライフィッシングとテンカラの違いもぜひ知っておいて欲しいと思っている。大きな違いがいくつかある。ただし、フライフィッシングをやっている人間からの多少のバイアスの掛かった意見として読んでもらえればと思う(笑)。

 

まず一つはテンカラの竿は長いということ。大抵3mから4m、対してフライフィッシングの竿は渓流用のもので2m30cm程度。少しの違いのように見えるが、実際に川に立って釣りをしてみると大きな違いに気付く。上の動画のような開けたアメリカの川と違い、日本の渓流、特にUL志向の人たちが行くような源流域ではその長さを持て余すことが多いだろう。逆にその長さを生かして流れの向こうを釣る場面もあるだろうけど、フライフィッシングをやっている身からすると、それをやっちゃお終いよ、というやつである。投げて、フライを落として、ラインを操作して、いかに自分のテクニックで流れを攻略するか。自分はそこに遊びとしての面白みを見出している。

 

もう一つの大きな違いはリールが無いということに起因する。当たり前だけど、リールが無いということは糸を竿の先に直接結び付けている。つまり竿の先から出ている糸の長さを変えられない。ということは魚がいるポイントから一定以上離れられないか、もしくは逆に近づくことができない。やってみると千変万化の渓流でポイントまで毛針が届かないので非常に難儀した。釣りでは自分の技術に応じた魚との間合いがあるけど、そこがかなり制限される感じがする。ポイント毎にいちいち糸を交換するというのも現実的じゃない。その点、フライフィッシングは投げる技術さえあれば距離をおくことも、近づくこともより自由にできる。

 

 

また大きい魚が掛かった時にフライフィッシングではリールを使ってラインを出し入れしながらやり取りをするけど、 テンカラは竿の曲がりで吸収するか、自分が動き回るしかない。魚を取り込む時も同じで、糸が竿より長いので最後はどうしても糸をつかんで手繰るしかない。ポイントを移動する時も竿はすぐにたためても長い糸をグルグルと巻かないといけないし、合わせや投げた後の操作でも長いままの糸は長い竿と同じように扱いがとても難しいと思う。

 

 
 

終わりに

と、ここまで考察してみて、確かにアメリカのメーカーが提案しているテンカラ(シンプル・フライフィッシング)はシンプル、シンプルと言っているのだけれど、果たして本当にそうかなと思う面が無くもない。リールでも100gを切るものがあるし、それが無いだけでそこまで違うことなのかなと。GO OUTの記事にもあるとおり、フライフィッシングでも突き詰めれば道具も減らせるものだ。どうも西洋から見た東洋の禅思想的なものへの状況に似たものを感じてしまうのは自分だけだろうか。それとも単純にビジネス上の商品戦略なのだろうか。

 

 

もちろんフライフィッシングの仲間を増やしたいと言う気持ちで書いてはいるけれど、かと言ってテンカラやアメリカのメーカーの提案を否定するつもりも全く無い。テンカラそれ自体は日本の誇るべき釣り文化だと思うし、今こうして世界に広がりを見せていることは単純に嬉しい。またこれまで釣りという遊びに興味を持っていなかった人や始めたいと思っていた人たちにキッカケとなってくれたらそれは素晴らしいことだと思う。

 

釣りを始めてみようという方は、これから自分がやろうとする釣りがどういうバックグラウンドを持っていて、どういう違いがあるのかってことを知っておくと、さらに楽しむことができると思ってこの記事を書いてみた。始めたのはいいけど、イメージと違ったりしてすぐに止めてしまうのが一番悲しい。

 

釣りは遊び。楽しむためにやるもの。どんな遊びでもそうだけど、遊びだからこそ真剣にやればやるほど面白い。自分なりのスタイルを見つけてもっと多くの人に釣りを自由に楽しんでもらいたい。

 

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